本の覚書

本と語学のはなし

魔女と聖女/池上俊一

 中世・近世ヨーロッパの女性論。
 キリスト教的偏見の中では、一方の極にイヴを祖型とする魔女がいる。魔女狩りカトリックによって始められ、プロテスタントが増幅させたというが、特に両者の角逐の激しい地域では凄まじかった。つまり、最も魔女への迫害が激しかったのは、中世というよりも近代の黎明期にあたる十六世紀から十七世紀にかけてのことである。魔女の供述にはプロトタイプがあり、それは女性への脅迫的な恐怖を反映した悪魔学の一連の著作によって生み出されたもののようである。
 もう一方の極には、聖母マリアを祖型とする聖女がいる。これは魔女の存在と表裏をなしており、最も魔女の栄えた頃に、最も極端な聖女たちが登場する。彼女らはしばしばイエスを身ごもり、あるいはイエスに抱かれ、法悦というにはあまりにロマンチック、エロチックなエクスタシーに浸る。
 この両極の間に、娼婦であったというマグダラのマリアを祖型とする一般女性が存在する。普通の女性の内、魂の救済を求めながらもカトリックの体制の中におさまりきらない人たちは、カタリ派やワルド派などの異端の運動に参加していく。異端における女性の比率は高く、またカトリックでは許されない地位もつくことができたようだ。
 最後の二章はごくふつうの女性たちにスポットが当てられる。目から鱗だったのは、十字軍に参加する男たちが、残る妻に貞操帯を付けさせていたというのは近代人の思い込みであって、実は夫婦そろって十字軍に出掛けるのが一般的であったということだ。