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堤中納言物語を始める

堤中納言物語  新潮日本古典集成 第56回

堤中納言物語 新潮日本古典集成 第56回

堤中納言物語 (講談社学術文庫)

堤中納言物語 (講談社学術文庫)

  • 発売日: 1981/10/07
  • メディア: 文庫

 『万葉集』の続きでもと思ったが、ちょっと目先を変えて『堤中納言物語』を読み始める。全部読んでしまうか、どこかでいったん中断するかは、決めていない。講談社学術文庫のもあるので(本来は兄の所有だが)、必要に応じて現代語訳、注釈、鑑賞を参照する。
 短篇の配列は本によって違うようだ。新潮日本古典集成は「このついで」から始まるので、私もここから始める。出だしは何かけだるい雰囲気。

 中納言の君、御帳のうちに参らせたまひて、御火取あまたして、若き人びと、やがて試みさせたまひて、すこしさしのぞかせたまひて、御帳のそばの御座に、かたはら臥させたまへり。
 紅梅の織物の御衣に、たたなはりたる御髪の裾ばかり見えたるに、これかれ、そこはかとなき物語、忍びやかにして、しばし候ひたまふ。

 中納言の君が取り次いで、御帳台の中の女御に差し上げなさると、香炉をたくさん用意して、若い女房たちに試させなさり、ご自分もちょっとのぞいてご覧になると、御帳台のそばの御座に横になっておくつろぎになった。紅梅の織物のお召し物の上に、黒い豊かなうねりを見せてお髪のさきがのぞいていたが、中将は二、三人の女房ととりとめのない話をささやきかわしながら、しばらくおまえにかしこまっていらっしゃる。

 古文に出てくる「御」の読み方には困ることがあるのだけど、両者とも振り仮名を振ってくれているのでありがたい。ただ、読みが違うこともある。
 「御帳」は両者とも「みちょう」。「御火取」は「おほむひとり」と「おんひとり」。「御座」は両者とも「おまし」。「御衣」は「おほむぞ」と「おんぞ」。「御髪」は「おほむぐし」と「みぐし」。「おほむ」と「おん」の対立は大したことではないが、「御髪」は「おぐし」と「みぐし」とどっちがよいのだろう。