●フローベール『三つの物語』(山田九朗訳、岩波文庫)
「まごころ」はフローベールが幼い日々を回想しつつ書いたもの、「聖ジュリヤン伝」はルアーブル大聖堂のステンドグラスを文章に書き起こしたもの、「ヘロヂアス」は聖書のサロメの踊を古代史の史実にのせて再構成したもの。『ブヴァールとペキュシェ』執筆に疲れ、ブルターニュはコンカルドに滞在した際に書き始める。『ブヴァールとペキュシェ』は未完のまま終わったから、作者唯一の短篇集が、生前に刊行された最後の本になる。
フローベールにはいくつかの顔がある。『ボヴァリー夫人』や『感情教育』の写実、『サランボー』の歴史、『聖アントワヌの誘惑』の超自然、そしてそれらを『ブヴァールとペキュシェ』や『紋切型辞典』によってメタ的に取り扱う手つき。『三つの物語』ではそれらが一体となって、フローベールの小宇宙をなしている。
- 作者:フローベール
- 発売日: 1940/06/18
- メディア: 文庫
原文で読むとその作家を贔屓にする傾向があるけど、フローベールは格別な存在になりそうな気がする。主要な作品は皆文庫で持っているけど、全集もほしい。訳で読んでいてさえ、その文体に強く惹かれる。原文も揃えたい。寡作なので量も手頃である。
とりあえずは、図書館で筑摩の全集を借りてみよう。しかし、全巻揃ってないのがなんとも田舎町の悲しいところだ。