●E. M. Forster『A Room with a View』(Penguin Classics)*1
物語自体は他愛のないラブストーリーとしか言いようがない。フォースターを読むなら『インドへの道』にしておくべきだったかもしれない。
この本を読む利点を挙げるとすれば、いかにもイギリス的な英語を堪能できること。現代の日本人から見れば奇妙に思われるイギリス人の生態を知ることができること。ヴィクトリア朝的倫理観が切り崩されようとするときにこそ、前景に押し出されるものがある。タイトルに使われている「眺め」は単にフィレンツェの景色のことではなくて、階級意識を超えたところに見える景色をも含意しているだろう。
翻訳はちくま文庫の西崎憲と中島朋子のものを参照した。中島が先ず全篇を訳し、西崎がそれに手を入れ仕上げたと言う。これについても書いておかなくてはいけない。
教えられることはたくさんある。しかし、逆に教えてあげたくなることもあまりに多い。時々はかなり基本的なことでも間違いを犯している。
小細工を弄しすぎる。書かれていないことを補ったり、素直に訳してよいところを言い換えたり、何ということのない表現を大袈裟に訳したり。程度の問題ではあるが、私には度を越えているように思われる。テクニックは鼻につき、時に創作ではないかと言いたくなる。
こんなことを考えるのは私だけかと思って、アマゾンのレヴューを見てみた。この作品に関しては特に非難の声はなかったが、ヴァージニア・ウルフ短篇集の西崎訳は酷評されていた。誤訳が多いとか、解釈に違和感を覚えるとか、日本語能力に問題があるとか。私はそれを読んでいないけど、確かにこの人がウルフを訳してはいけないだろうと思う。
次はフォークナーの『アブサロム、アブサロム!』。時間はかかるかもしれないが、ウルフを読んで一段上の英語力がついた時のように、*2フォークナーも我慢して最後まで読み通せば、見えてくる風景がちょっと変わるだろうと期待している。
A Room with a View (Penguin Classics)
- 作者:Forster, E. M.
- 発売日: 2000/07/01
- メディア: ペーパーバック
【参照した翻訳】
- 作者:E.M. Forster
- 発売日: 2001/09/01
- メディア: 文庫