本の覚書

本と語学のはなし

枕草子

なれど、歌よむと言はれし末々は、すこし人よりまさりて、「そのをりの歌は、これこそありけれ。さは言へど、それが子なれば」など言はればこそ、かひある心地もしはべらめ。つゆとりわきたる方もなくて、さすがに歌がましう、われはと思へるさまに、最初によみ出ではべらむ、亡き人のためにもいとほしうはべる。(95 五月の御精進のほど

けれど、歌が上手だと言われた者の子孫は、少しは人よりまさって「これこれの折の歌は、この歌がすばらしかった。何と言っても、だれそれの子なのだから」などと言われるならばそれこそ、詠みがいのある気持ちもすることございましょうに。少しもこれといった点もなくて、それでもいかにも歌らしく、自分こそはと思っているふうに、得意然として真っ先に詠み出したりいたしましては、亡き人のためにも気の毒でございます


 清少納言の曽祖父・清原深養父(ふかやぶ)と父・清原元輔(もとすけ)は著名な歌人で、父の方は『後撰集』の選者の一人でもあった。そういう人のところに生まれるのもなかなか大変のようだ。
 「五月の御精進のほど」の段は面白い。