本の覚書

本と語学のはなし

Schön ist die Jugend


 ドイツ語を読んでるなあと実感するポイントはいくつかある。やたらに子音が多い、名詞が必ず大文字で始まっている、ウムラオトの記号がある、動詞が分離する、副文の中で動詞が末尾に位置するなどなど、どれもドイツ語のごつい感じを演出している。
 しかし、私が嬉しくなるのはまた別のポイントだ。他の言語ではあまり見かけない自動詞の受動態である。下に引用した中では「nicht geraucht werden durfte」とあるのがそれで、直訳すれば「喫煙さるべきではなかった」なのだが、主語はない。敢えてつければ es なのだけど、それを置いたところで形式的な主語でしかない。

Ich aber hatte mir zuvor ein Krüglein Bier geholt und kaltgestellt, das setzte ich in meinem Zimmer auf den Tisch, und da in den Wohnstuben bei uns nicht geraucht werden durfte, stopfte ich mir jetzt eine Pfeife und zündete sie an. (p.18)

しかし、私はビールをジョッキに一杯、前もってもって来て、冷やしておいたのを、自分のへやのテーブルの上にのせた。私たちのうちでは居間でタバコを吸うことは許されなかったので、今ようやく私はパイプをつめて、火をつけた。(高橋健二訳,新潮文庫16頁)