本の覚書

本と語学のはなし

『女警部ジュリー・レスコー 赤毛の2人』


 フランスは日本をはるかに越える柔道大国だというのに、この作品の中に出てくる柔道は決して柔道などではない。空手と合気道と柔道がごちゃ混ぜになっている。
 礼儀を重んじ、畳に靴で上がることなど絶対に許さない師範の女性が、畳の上で柔道着を着たまま性交渉に及ぶのも不思議である。彼女の武道はほとんど空手のようであるが、このシーンを作るためにはどうしても柔道の寝技が必要だった。それでこの空手柔道を柔道と強弁するはめになったのかもしれない。
 彼女には日本に師匠がいるらしい。ところが、彼女の部屋ときたら、一度も日本に行ったことのない西洋人が空想する東洋趣味そのものである。
 フランスの柔道人口は多いけれど、一般人でも柔道についてよく知っている日本とは、やはり違うのかもしれないと思った。


 ところで、この『赤毛の2人』というタイトルは誤訳ではないだろうか(原題は『Double Rousse』)。
 確かに「rousse」は、「赤褐色の、赤毛の」という意味の形容詞「roux」の女性形でもある。しかし、辞書を見ると、俗語で「警察、サツ」を意味することも分かる。
 「double」は「二重の」という意味であって、「2人」とするのは無理があるような気がする。この場合は「二重スパイ(agent double)」とか「二重人格(personne double)」と言うときのような、「表裏のある」という意味で使われているのではないだろうか。
 上記の柔道の師範は殺人鬼と化した元警察官である。一方、赤毛の重要人物が2人出てきた記憶は全くない。
 どうも『ジュリー・レスコー』の字幕はあまり信用できないような気がしている。ひょっとしたら、フランス語の専門家が訳しているのではなくて、英訳台本から英語の専門家が訳しているのかもしれない。以前にも、フランス語の知識が少しでもある人なら絶対に犯さないような間違いを発見したことがある。


 久し振りに『ジュリー・レスコー』と『アリー・マクビール』を見た。週末はもっと映画やドラマを見ることにしよう。


女警部ジュリー・レスコー 赤毛の2人 [DVD]

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  • 発売日: 2001/11/23
  • メディア: DVD