本の覚書

本と語学のはなし

シェイクスピア全集3 喜劇Ⅲ/シェイクスピア

 『尺には尺を』(平井正穂)、『ペリクリーズ』(御輿員三)、『シンベリン』(三神勲)、『冬の夜語り』(福原麟太郎・岡本靖正)、『あらし』(和田勇一)を収録。喜劇というよりは、いわゆる問題劇やロマンス劇である。
 『尺には尺を』は『終わりよければすべてよし』と同様、ベッド・トリックが出てくる物語。終わり方もまた不気味である。
 『シペリクリーズ』や『シンベリン』『冬の夜語り』は、長い年月の末に、生き別れになっていた親子、夫婦が再会する、回復の物語である。カトリック的な融和が主題となっているのだと、誰かが言っているのをどこかで読んだことがある。
 『あらし』は単独で書いたものとしては、シェイクスピア最後の作品。孤島に逃れたナポリ公国の元君主が、魔術を使い、妖精を使い、嵐を起こして自分を追放した者たちを島へと誘い込む。だが、それは復讐のためというよりは赦すためである。解説で小津次郎は予定調和的なこの作品を「壮麗な一篇の劇詩」と表現する。劇作家としては、既に『冬の夜語り』をもって終わっていたのだという。

ファウスト 第一部/ゲーテ

 ホームズの古い独訳にところどころ引っ掛かって、ちょっと我慢できなくなった。それで代わりに『ファウスト』でもと気楽な気持ちで始めてみたところ、どうせならゲーテの全体を見晴らしてみたいという欲が湧いてきた。
 だが、どうだろう。到底私に背負いきれるものではないのではないか。ゲーテが主人公というのならまだしも、脇役としてはあまりに重たすぎるのではないか。


 これまでに読んだゲーテを列挙してみる。
 翻訳では『若きウェルテルの悩み』『ヘルマンとドロテーア』『ファウスト 第一部』『ファウスト 第二部』『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』、そしていろんな作品から格好良い言葉を集めてきた『ゲーテ格言集』(新潮文庫)。
 原文では『若きウェルテルの悩み』、対訳叢書の『美しい魂の告白』と『ゲーテ詩集』(郁文堂)。詩集はカセットも購入して、学生時代、よく聞いていた。『ファウスト』は途中まで読んだことがあるし、記憶はあやふやだが『ヘルマンとドロテーア』も少しは読んでみたのではないだろうか。
 だが、これだけである。私が今回ゲーテに引き寄せられたのも、『ゲーテ格言集』と『ゲーテ詩集』と『ヘルマンとドロテーア』の強烈な印象が、記憶の奥底でもぞもぞし始めたからにすぎない。


 ゲーテを続けるか否かは、転職活動の結果にも左右されるだろう。
 先日面接を受けてきた。感触はよかった。しかし、そんな感触が当てにならないことは幾度も経験している。明後日に通知が来るまでどうなるか分からない。
 仮に合格だったとする。職場は近い。日勤である。だが、短いリズムを刻まなくてはならない。ゲーテに深く分け入る余裕はなくなるのではないか。ドイツ語はホームズに戻すか、聖書原典講読のお伴にルターの聖書を参照するだけにするだけにとどめる方が、賢明であるかも知れない。
 不合格だったとする。これまで通りの生活が続く。ゆったりとしたペースで時間が流れるので、何に手を出してもよい。ゲーテを続けることもできる。その代わり、どれもこれも亀のようなスピードでしか進まない。


 久し振りの『ファウスト 第一部』。
 ゲーテ継続のために有利になるとは思われなかった。ゲーテは面白がって読むものではないだろうし、遺跡を発掘する考古学者の忍耐がしばしば必要であるように思われる。
 そして、こんなことを言っては元も子もないが、ゲーテは、翻訳ではなく、ドイツ語で読むべき詩人である。

2020年版 消毒と滅菌のガイドライン/大久保憲ほか編集

 面接対策として。
 簡潔な記述であって、基礎の基礎から教えてくれるような本ではないから、実務経験も予備知識もない私にとってはイメージしにくい部分も多々ある。
 もし採用されたなら、日常業務を覚える一方で、物理、化学、生物、医療および医療機器について、少しずつ学んでいく必要がありそうだ。


 エボラ出血熱など、日常的な業務には関係ないであろうことも書かれている。資格を取るときには、感染症全般の知識を押さえておかなくてはならないのだろう。
 新しいところでは新型コロナにも触れられている。今後どうなるのかは分からないが、この本の段階ではSARSと同様の対応が求められるとしている。


 面接はどうなるだろうか。
 今の仕事にどうしても我慢できないというわけではないので、転職活動にもそれほど真剣味がないかもしれない。そのせいか、年齢のせいか、人間性のせいか知らないが、まれに応募し、ごくまれに面接にこぎつけても、なかなか合格には至らない。