犬養孝『万葉のいぶき』と『万葉十二カ月』。
『万葉集』は小学館の全集で読んでいる。注釈と現代語訳はもちろん便利。人名や地名一覧などの付録ももちろん便利。だが一番気に入っているのは、万葉仮名の原文が載っていること。ただの原文じゃない、振り仮名つきの原文である。目を通すのが億劫でないから、万葉仮名にどんどん親しむ。
近ごろ読んだ柿本人麻呂の長歌(3-239)に、「鹿(しし)こそば」というのが出てくる。原文は「十六社者」。十六は四かける四、つまり四四であるからシシと読むのである。そんな遊びもある。同じ歌の中に「鹿じもの」とまたシシが出てくるが、その部分の原文は「四時自物」。同じ遊びを繰り返すのは粋ではなかったのだろう。
当分和歌は『万葉集』三昧でいこうと思う。だが和歌の羅列に立ち向かうのは、鬱蒼とした樹海に入り込んでいくようなもの。たまに私の万葉の原点に立ち返り、犬養孝の教えを乞うことにする。
鈴木信太郎訳『マラルメ詩集』。自選詩集の全訳というが、詩は百三十ページ程度。ヴァレリーの「私は時をりマラルメに語つた……」という文章がおまけでついている。マラルメは読まなくてはならないはずなのだが、私はマラルメが何者であるかをよく知らない。