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本と語学のはなし

『20世紀アメリカ短篇選(上)』


●『20世紀アメリカ短篇選(上)』(大津栄一郎編訳、岩波文庫
 20世紀前半に活躍した作家の短篇を集める。オー・ヘンリージャック・ロンドンフィッツジェラルドヘミングウェイスタインベックら、アメリカ文学と聞いてすぐに思い浮かぶ人たちが目白押しだ。それだけまだ歴史が浅いということかもしれない。
 私が一番好きなのは、フォークナーの「ある裁判」。インディアン系の大工の老人に白人少年が興味を持つという出だしに、「熊」に出てくるメンター的存在のインディアンを思い出したが、彼が語るのは彼の父親がいかに卑劣に黒人奴隷を孕ませたかという話である。メルヴィルにおいても、オセアニアあたりの出身者で白人からは決して同等と考えられていない人物が、黒人に対しては白人の思考の枠をそのまま適用して見下げるということがあった。
 『20世紀イギリス短篇選』のところでも書いたが、*1こうやって並べると、時代とともにアメリカ的なものが見えてくるようで面白い。「第二次世界大戦が始まるまではアメリカは広大な田舎だった」という訳者の指摘もその通りだと思う。

20世紀アメリカ短篇選〈上〉 (岩波文庫)

20世紀アメリカ短篇選〈上〉 (岩波文庫)

  • 発売日: 1999/03/16
  • メディア: 文庫