本の覚書

本と語学のはなし

『An Artist of the floating World』


●Kazuo Ishiguro『An Artist of the floating World』(VINTAGE)
 戦意高揚の画風で名をなした画家が、戦後、娘の見合いを機に過去を振り返る一人称の物語。一応は過去の過ちを部分的に認めながらも、信念を持って成し遂げたことであると自己弁護をし自己肯定をする。戦後の精神風土の変化には、常に懐疑を抱き、しばしば苛立たしさを覚える。記憶は意図してかどうかあいまいなことが多く、次から次へと脱線してゆき、しかも肝心なことにはいつもヴェールがかけられている。最終的に分かるのは、語り手が徹底的に俗物であるということだけだ。
 読んでいて楽しいというものではない。それどころか、しょっちゅう苛立ちながら読まなくてはいけない。手腕は見事なのだろうけど、暫らくカズオ・イシグロは読まなくてもいいかな。


 途中から翻訳の参照は最小限にとどめ、とにかく原文を先へ先へ読み進めることにした。英語は比較的平易だし、小説の舞台は日本であるから情景の想像も容易で、飛田茂雄の出番は少なかった。しかし、時間を惜しまず原文と一々見比べてみたら、翻訳のためにはよい勉強になると思う。飛田の仕事はなかなか素晴らしい。


 続いては、サガンの『悲しみよこんにちは』を再開。

An Artist of the Floating World (Vintage International)

An Artist of the Floating World (Vintage International)

  • 作者:Ishiguro, Kazuo
  • 発売日: 1989/09/19
  • メディア: ペーパーバック
【翻訳】
浮世の画家 (ハヤカワepi文庫)

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