本の覚書

本と語学のはなし

『橋元の物理をはじめからていねいに 力学編』 〔43〕


●橋元淳一郎『名人の授業 橋元の物理をはじめからていねいに 力学編 新課程版』(東進ブックス)
 我慢できずに物理にまで手を出してしまった。あきれるほど易しい力学の参考書である。
 物理は数学の鎧を身にまとった難解な学問である、というのが一般的な理解だろう。しかし、高校の物理は微積分を使わずに理解できるようになっており(微積分を用いて解説する参考書もある)、このレベルでは数学的なセンスは必ずしも要求されない。
 「物理はイメージだ」をモットーにする橋元は、さらに輪をかけて物理を理解しやすいものにしてくれている。「なぜそうなるかは、ここでは証明しませんが」というような言葉が多用されるのは気になるが、最初の読み物としてはいい本だろうと思う。


 だが、この後、第2弾の『熱・波動・電磁気編』や大学の教養課程で使われるような物理全般の概論的テキストに進む気力は、今のところない。物理を趣味にしたところで、私の手に負えるわけがないのである。
 そこに差し向けることのできる理数系的余力があるなら、むしろ経済に必要な数学を学ぶべきだろう。線形代数だとかラグランジュ乗数だとか位相だとか、今の私には何のことだか何の役立つのだか全く分からないけど、学んでおいた方がいいに違いないことはまだ山ほどある。


 余談。

静止摩擦係数と動摩擦係数は違います。どうしてでしょう? 実は、厳密にはよく分からない問題なんです。「そんなことでいいの?」と思うでしょうが、物理では最先端のことがわかっていても、こんな摩擦力のような基本的なところほど、わからないことばかりなんですよ。私たちの日常生活の物理現象で不思議なことは多いのです。(73頁)


 物を動かそうとするとき、いったん動いてしまえば軽く感じられるのに、動くまでが重くてしかたない。経験的な事実ではあるが、物理学で厳密な説明はできないらしい。こんな話が実は一番面白かったりする。