●島本理生『リトル・バイ・リトル』(講談社文庫)
興に乗ってきたところでこういうものを挿んだりするから、『アンナ・カレーニナ』はいつまで経っても前に進まない。
ずいぶん地味な話だ。地味だが渋くはない。図書館ではたいていヤングアダルトに分類されているから、渋さを求める方が間違っているのだろうけど。まぶたの動きひとつに愚劣な感情の渦を読み取ってしまうような感性、それだけを恃みに暴力的に世界を規定する悪魔のごとき理知性、それを誇示しつつ嫌悪に陥る自意識。20歳の女性の作品となれば、そういうものを予想して身構えてしまうものだ。その欠如はまあいいとして、ひねた感じの毒が微塵もないのは少しさびしい。
島本本人による文庫版のあとがきでは、「楽しい話を書こう」と思ったとある。これが島本の楽しい話かと思うと微笑ましい。こういう地味な話を楽しいと思って淡々と書き綴る島本というのは、すごい作家なのかもしれない。正確には、なりつつあるというべきだろうか。解説の原田宗典も指摘するように、島本は書きながら自分も一緒に成長している。文章も上達していっている。
しばらく読んでみようという作家のリストに入れる。
- 作者:島本 理生
- 発売日: 2006/01/13
- メディア: 文庫