本の覚書

本と語学のはなし

図説 聖書考古学 旧約篇/杉本智俊

図説 聖書考古学 旧約篇 (ふくろうの本)

図説 聖書考古学 旧約篇 (ふくろうの本)

 考古学は聖書の記述が真実であるか否かを証明するものというよりは、その歴史的背景を明らかにする学問である。発掘されたものから聖書の記述をどう評価するかは、ある程度学者の信仰と関わっているようである。
 著者は学者であると同時に牧師でもあるから、なるべく聖書の記述をそのまま受け取りたい感じがよく出ている。
 例えばヤハウェ一神教の起源について、主として三つの主張がある。
 一つは、モーセ以来イスラエルはずっと一神教であるというもの。後の多神教的な要素は、カナンとの接触で起きた堕落であるとする。
 一つは、元来イスラエルはカナンと同じ多神教であったが、一部の過激な預言者たちがヤハウェ専一運動を行い、前7世紀末にヨシヤ王が宗教改革を行って初めて一神教が確立したというもの。
 一つは、ダビデ王朝が政策として他の神々の属性や表象をヤハウェに取り込み、この拝一神教(礼拝するのは一つの神のみであるが、他の神々の存在を否定はしない)が純化して排他的になり、バビロン捕囚後にようやく世界を支配する唯一神としてのヤハウェが明確化されたというもの。
 イスラエルが元来多神教であったということの証拠としていろいろな考古学的資料が挙げられているが、著者はそのすべてに非常に慎重な態度を示す。「それゆえ、ヤハウェ一神教多神教が一部の人によって先鋭化された思想というよりも、最初からまったく異なる世界観だったものが段階的に明確化されたものだと理解されるべきだろう」(p.84)。
 私にとってはあまり腑に落ちるようなものではないので、一神教の起源については別の人の著作も読んでみなくてはならない。

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