本の覚書

本と語学のはなし

アシジの聖フランシスコの小さき花/石井健吾訳

 フランシスコとその仲間の逸話を集めたもの。ほとんど伝説のように脚色されている感じもするが、中世の聖人たちというのは、現代の我々から見ると行き過ぎと言いたくなるほど神に酔い、神に溺れ、それを誇りとしていたように思える。宗教には多かれ少なかれ神を見たいという衝動が伴ってはいるだろうけど、神秘主義をこじらせることを禅の世界では野狐禅と呼んでおり、若い頃に禅の思想に親しんだせいか、今でも私は野狐の類がちょっと苦手なのである。

 初期フランシスコ会の分裂の流れを知っておくと、もっと原著者の意図に近づくことができるのかもしれない。底本のものをそのまま訳したと思われる解説もついているのだが、記述も翻訳も分かりにくい。できれば訳者によって整理された解説が欲しかった。
 誤字や脱字が非常に多いのも残念。