本の覚書

本と語学のはなし

中国名詩選(中)/松枝茂夫編

中国名詩選〈中〉 (岩波文庫)

中国名詩選〈中〉 (岩波文庫)

  • 発売日: 1984/09/17
  • メディア: 文庫
 晋代から盛唐まで。有名どころで言うと、陶淵明から李白杜甫までの時代を扱っている。もちろんそれだけでなく、杜甫の魁である鮑照や李白すら低首せしめた謝朓、詩人たちに模倣され後に五言絶句の原型ともなった南朝の歌謡「子夜歌」なども載せられている。漢詩の歴史を直に感じることができて楽しい。
 昔なら陶潜か李白かばかりに目が行って、杜甫を顧みることはほとんどなかっただろうけど、今は一番好きかもしれない。

   水檻遣心(水檻すいかんに心を遣る)


 去 郭 軒 楹 敞    郭を去って軒楹けんえいひろく、
 無 村 眺 望 賖    村無くして眺望はるかなり。
 澄 江 平 少 岸    澄江 平らかにして岸少なく、
 幽 樹 晩 多 花    幽樹 おそくして花多し。
 細 雨 魚 児 出    細雨 魚児で、
 微 風 燕 子 斜    微風 燕子えんし斜めなり。
 城 中 十 万 戸    城中 十万戸、
 此 地 両 三 家    此の地 両三家りょうさんか

 それにしても、中国史通をもって自ら任じている同僚が、漢詩に関しても甚だしく干渉をしてくるので辟易している。といっても、それはほとんど口実に過ぎない。漢詩は分からんと結論した後、中国史通俗的な知識を開陳しようというだけなのである。歴史小説をやめたようには漢詩をやめるつもりはないのだが、彼と組む時だけは何か対策を講じなくてはならない。