本の覚書

本と語学のはなし

はじめての漢詩創作/鷲野正明

はじめての漢詩創作

はじめての漢詩創作

 石川忠久と小川環樹を足して二で割ったような本。といってもよく分からないが、詩語のイメージなんかの説明は師の石川譲り、文法説明の一部は大いに小川の『漢文入門』に学んでいるという感じ。確認はしてないが、きっと『唐詩概説』だって参考にしているだろうし、他にもいろいろの影響関係があるには違いない。
 創作のための本だけど、鑑賞のためにも有益であると思う。詩に特有の語順の変化や語の省略にページを割いてくれるのはありがたい。詩の表現は何でもありだと思われているせいか、一々こういうことを説明してくれる本はあまりない。だが、散文ではどう表現されるべきものかということを念頭に置かなければ、本当に詩を理解することはできないだろう。

 ところで、初心者は漢詩をどうやって作るのかというと、レディーメイドの表現を集めた詩語集というものが売っていて、それを組み合わせて行けば、平仄にも叶い、韻を踏んだ作品が出来上がるという仕組みになっている。
 この本には詩語表は載っていないが、少しだけ秋の詩語が紹介されている。試みにこれを使って、平起こりの下平声一一尤の韻で最初の二句を適当に作ってみると、たとえば「風鈴枕上寺楼秋、冷気侵肌月光幽」となる。平仄と韻を記号で表すと「○○●●●○◎(尤)、●●○○●●◎(尤)」で規則にも叶っている。まあ、こんなのは詩ではないが。
 こういうパズルのような遊びをしているといつか自在に作れるようになるのかどうか知らないが、果たして現在、伝統の継承という以外の積極的意義が漢詩創作にあるのかどうか、ちょっと疑わしい。