本の覚書

本と語学のはなし

萩原朔太郎詩集/河上徹太郎編

萩原朔太郎詩集 (新潮文庫)

萩原朔太郎詩集 (新潮文庫)

 まったく分からなかった。モチーフがまるで好きになれない。段々とページをめくるのも苦痛になった。日本の詩歌は古典だけしか感受できないのかもしれない。

 一つだけ詩の引用。嫌いなものの見本としてではない。付箋を付けておいたのだが、読み返してみると、なぜこれを後で書写しようと思ったのか疑問には思うのだけど。

    乃木坂倶楽部


 十二月また来たれり。
 なんぞこの冬の寒きや。
 去年はアパートの五階に住み
 荒漠たる洋室の中
 壁に寝台べっどを寄せてさびしく眠れり。
 わが思惟するものは何ぞや
 既に人生の虚妄に疲れて
 今も尚家畜の如くに飢えたるかな。
 我れは何物をも喪失せず
 また一切を失ひ尽せり。
 いかなれば追はるる如く
 歳暮の忙がしき街を憂ひ迷ひて
 昼もなほ酒場の椅子に酔はむとするぞ。
 虚空を翔け行く鳥の如く
 情緒もまた久しき過去に消え去るべし。
 
 十二月また来たれり。
 なんぞこの冬の寒きや。
 ふものはどあつくし
 われの懶惰を見て憐れみ去れども
 石炭もなく暖炉もなく
 白堊はくあの荒漠たる洋室の中
 我ひとり寝台べっどに醒めて
 白昼ひるもなほ熊の如くに眠れるなり。