本の覚書

本と語学のはなし

購入6-6

 ミルトス・ヘブライ文化研究所編『創世記』Ⅰ・Ⅱ。 ヘブライ語聖書対訳シリーズはまだ完結していないけど、既に品切れになっているものも多く、中には法外な値段が付けられているものもある。『創世記』はⅠが新刊で入手可能、Ⅱは不可。今回はいずれも古本で注文した。作りが丈夫でないのか、元の所有者の扱いがハードだったのか、若干いたみはあるけれど、まっとうな価格で入手することができてよかった。
 最初の一文を見てみる。

  : בְּרֵשִׁית בָּרָא אֱלֹהִים אֵת הַשָּׁמַיִם וְאֵת הָאָרֶץ
  初めに、神は天地を創造された。(創1:1)

 「ツレアハ トッエェヴ ムイマャシハ トッエ ムーヒろエ ーラバ トーシレベ」。ヘブライ語は右から左に読む。単語の下に付された振り仮名は、それにならって、右から左に読む。普通に書き直せば「ベレシート バラー エろヒーム エット ハシャマイム ヴェエット ハアレツ」となる。
 「地 を~と 天 を は神 たし造創 にめ初」。各単語の下の逐語訳も、同様に右から左に読む。
 「単女・冠 前・接 双男・冠 前 複男 単男3完パ 単女・前」。逐語訳の下には、簡単な文法の分析がある。最後の単語(一番左)は「冠・女単」とあるが、これは冠詞と女性名詞の単数形が結合した形であることを示している。つまり「ハ」が冠詞で、「アレツ」(辞書の見出し語では「エレツ」)が「地」を表す女性名詞である。
 さらに簡単ながら脚注もついている。特に注意したいのは、「神」を表す「エろヒーム」が複数形であること。これは「神々」ではなく(その意味でも用いられるが)、「唯一神」に対する尊敬用法として理解されている。したがって、動詞は文法分析にも示した通り、単数形を用いるのである。

 こんな虎の巻があれば楽ではあるのだけど、自分の頭で考えながら、自力で辞書を引くようにならなければ、本物の力が身についたとは言えない。『創世記』で十分に訓練したら、便利すぎるこのシリーズはもう敢えて買わないことにする。