本の覚書

本と語学のはなし

他人


 昨日の昼過ぎ、東京の警察から電話があって、失踪中の兄と同じ名を名乗る男が保護されたという。母とともに地元の警察署に行き、写真を確認する。ところがファックスで送られた写真は黒くつぶれて誰だか分からない。データをメールに添付して送ってもらった方がいいんじゃないかと言うと、いずれの担当者も技術には疎いらしく30分くらい待たされた。ようやく送られてきた写真を見ると、どうやら十中八九間違いなさそうである。横になって髪を上げた写真は別人のように見えるが、立っているときと横になっているときでは、誰でも多少なりと人相が変わるものである。
 すぐに引き取ることにした。問題は彼が正気を失って叫び続けており、とても電車やバスなどの公共交通機関に乗せて帰ることはできそうにないことだ。近くに住む別の兄にも応援を頼んで車を出してもらい、彼の運転で私が練馬以降のナビをすることになった。
 出発したのが夕方6時、渋滞もあって東京の管轄警察署に着いたのが夜の11時。さっそく本人をマジックミラー越しに見ると、全くの別人であった。実は、東京に向かう途中にも何度か警察から連絡が来て、どうやら別人の可能性が高いという話であった。本人は一度寝て落ち着きを取り戻し、支離滅裂ながらも断片的に参考になることを話し始めた。我々が着いた直後、本物の親とも連絡がついた。まず間違いはないようだ。
 無駄足であったわけだが、あれが兄であったらその後が大変だったろう。精神科に入院なり通院なりさせるにも、健康保険料を滞納している可能性が高い。市役所との折衝が必要になるだろう。他にもどれだけ負債を抱えているか分からない。私も翻訳の仕事をのんびり待つ余裕はなくなるかもしれないし、家で仕事のできる状況ではなくなるかもしれない。私自身が破滅に至る可能性もなくはない。
 東京の警察署を出たのが深夜零時。途中で遅い夕飯を食べたり、休憩をして、家に戻ったのが今日の早朝5時半であった。