本の覚書

本と語学のはなし

『消え去ったアルベルチーヌ』


プルースト『消え去ったアルベルチーヌ』(高遠弘美訳、光文社古典新訳文庫
 グラッセ版による『失われた時を求めて』第6篇の全訳。プルーストが生前に最後の修正を施したのがこの版であるが、仮借ない削除によってずいぶん短くなっており、本文は190ページ程度しかない。
 集英社文庫の全篇訳は13冊。限りなく続く「私」の独り言に付き合うのは、読む前からめまいがする。吉田健一は最後の巻から順に読めばいいと言ったそうだ。だが、最後からという縛りも余計かもしれない。どの巻でもいいから読み通すことが通読への近道であると訳者は教えてくれる。凝縮されたグラッセ版ならば、いっそうそれが容易になるだろう。プルースト入門として、こんなにいい本はないかもしれない。
 語り手の「私」は捻くれて歪んで滑稽な時もあるけど、決して哲学的な難解さがあるわけでもなく、理解を超えたナンセンスさがあるわけでもない。13冊を一気には通読できないだろうし、睡魔に襲われることもしばしばあるだろうけど、大部分は楽しみながら読み進めることができるだろうという感触は得ることができた。


 次はトマス・ピンチョンの『競売ナンバー49の叫び』(ちくま文庫)。