本の覚書

本と語学のはなし

欽定訳の弊害【英語】

The Summing Up (Vintage Classics)

The Summing Up (Vintage Classics)

サミング・アップ (岩波文庫)

サミング・アップ (岩波文庫)

  • 作者:モーム
  • 発売日: 2007/02/16
  • メディア: 文庫

To my mind King James’s Bible has had a harmful influence on English prose. I am not so stupid as to deny its great beauty, and it is obvious that there are passages in it of a simplicity which is deeply moving. But it is an oriental book. Its alien imagery has nothing to do with us. Those hyperboles, those luscious metaphors, are foreign to our genius. (p.34)

ジェイムズ一世の欽定訳聖書が英語の散文にひとかたならぬ有害な影響を及ぼしてきたというのが、私の意見である。私も馬鹿ではないので、その非常な美しさを否定したりしない。あれは堂々たる名文である。だが、聖書は元来東方の書だ。あの異国風の表現は英語とは異質のものだ。あの誇張的な表現、きらびやかな比喩はイギリス人の本性には所詮遺物である。(p.47)

 「あれは堂々たる名文である」という訳はあまりに不可解である。もしかしたら版によって語句に異同があるのかもしれない。私が書き抜いた本文によれば、「欽定訳にも、深く心を打つある種シンプルな文章が含まれているのは明らかである」というほどのことを言っているはずである。
 それはともかく、欽定訳に対して、聖書に対して、英語およびイギリス人の本性にとって異質のものであると言い放つ。それが一瞬とても奇妙に思えたのだが、言われてみればごく当たり前のことである。
 このことは、キリスト教を学ぶ際によく覚えておかなくてはならない。