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聖書時代史 新約篇/佐藤研

聖書時代史 新約篇 (岩波現代文庫)

聖書時代史 新約篇 (岩波現代文庫)

  • 作者:佐藤 研
  • 発売日: 2003/05/16
  • メディア: 文庫

 イエス誕生の前夜から2世紀終わり頃まで、ローマとイスラエルの動向をふまえつつ、初期キリスト教の歴史を概観する。
 章立てを追っていくと、ナザレのイエスの生と死、「ユダヤ教エス派」の活動、パウロの伝道とパレスチナユダヤ教の滅び、「キリスト教」の成立、キリスト教の伝播・迫害・内部抗争となっている。
 これを見ても分かるとおり、イエスの活動も、いったん逃亡した弟子たちが再び集結してイエスの受難を解釈し直した「喪の作業」も、何がしか教会と衝突を起こしていたであろうパウロの宣教も、著者はまだユダヤ教内部の改革運動であると考えている。私にはちょっと疑問の点もあるが、それは追々考えていくことにしよう。
 では、いつ頃「キリスト教」なるものが成立したのか。ユダヤ戦争の結果、70年にエルサレムは焼き尽くされ、ユダヤ教の神殿体制も壊滅した。それがユダヤ教からの脱皮と独立の決定的契機であろうという。福音書が成立し、パウロの手紙が収集・編集されたのもこの時期である。
 やがてキリスト教グノーシス主義などの内部からの問題を抱えつつ、それに対抗するために、正統派「大教会」では信仰告白を制定し、新約正典を結集し、聖職位階制を確立していく。ここから後のことは、ローマ・カトリック史ないしビザンティン教会史となるであろう。

 この時代のことは分からないことが多いので、いろんな説を比較してみなくてはならない。そのための導入としてはいい本だと思うが、ちょっと物足りなかった。