- 作者:司馬 遼太郎
- 発売日: 2003/03/10
- メディア: 文庫
そういう〔戦争好きの〕体質のこの青年は、師の松陰が持たなかった戦略理論をあみだしていた。外国を怒らせ、戦争にもちこむ。日本じゅうをあげて――大名やその家来だけでなく百姓も女子供も――侵入軍と戦い、山は燃え、野は焦土になり、流民があちこちに発生し、それとともに既成の秩序はまったくこわれ、幕府もなにもあったものでなくなるとき、その攘夷戦争をやってゆく民族的元気のなかから統一がうまれ、新国家が誕生する、と晋作はおもった。それが革命の捷径(はやみち)であった。海外から敵を迎えて大戦争をやってのける以外、すべての革命理論はみな抽象論にすぎない、と晋作はおもった。(p.304-305)
革命戦略において、内国戦派には西郷隆盛や中岡慎太郎、非戦派には桂小五郎や坂本竜馬がいるが、晋作式の外戦派は彼ひとりのようだという。