本の覚書

本と語学のはなし

世に棲む日日(二)/司馬遼太郎

新装版 世に棲む日日 (2) (文春文庫)

新装版 世に棲む日日 (2) (文春文庫)

 前半の主人公だった吉田松陰が処刑され、後半の主人公、高杉晋作へバトンが渡された。1862年、上海で西洋文明を目の当たりにしたことで、晋作の方向は決まった。

 そういう〔戦争好きの〕体質のこの青年は、師の松陰が持たなかった戦略理論をあみだしていた。外国を怒らせ、戦争にもちこむ。日本じゅうをあげて――大名やその家来だけでなく百姓も女子供も――侵入軍と戦い、山は燃え、野は焦土になり、流民があちこちに発生し、それとともに既成の秩序はまったくこわれ、幕府もなにもあったものでなくなるとき、その攘夷戦争をやってゆく民族的元気のなかから統一がうまれ、新国家が誕生する、と晋作はおもった。それが革命の捷径(はやみち)であった。海外から敵を迎えて大戦争をやってのける以外、すべての革命理論はみな抽象論にすぎない、と晋作はおもった。(p.304-305)

 革命戦略において、内国戦派には西郷隆盛中岡慎太郎、非戦派には桂小五郎坂本竜馬がいるが、晋作式の外戦派は彼ひとりのようだという。