本の覚書

本と語学のはなし

ラテン文法/サン・スルピス会諸師著・ジャック・ツルデル監修

 教会ラテン語では母音の長短をあまり重要視しないのか、残念ながら長音記号が用いられていないのだけど、文法表が見やすいので、ちょっとした確認のために使っていた。
 しかし、優れているのは表だけではなかった。さすがにカトリックの公式言語として学ぶためのものだけあって、徹底的に「ラテン語で書く」という視点から編集されている。私のような似非ポリグロットはとりあえず読めればいいやということで、厳密な知識をすっ飛ばしてしまうのだが、書くとなればそれでは済まされない。厚くはないが、なかなか充実した、執拗と言ってもいいくらいの内容である。
 体系的な記述なので、いきなり初心者が独学で学ぶには向かない。*1文法用語も一般的なものではないし、構成もユニークだ。例えば、奪格の説明の中に状況命題の項があるけど、ここでは絶対奪格(この本では奪格別句と呼ぶ)のみならず、接続詞を使ったあらゆるタイプの状況を表す複文が扱われている。神学校での厳しい(かどうかは知らないが)指導の下、演習問題*2などを使いながら学ぶのでなくては、自分がどこにいるのか分からず迷子になってしまうだろう。
 三冊目くらいの文法書として、安く入手できるならば、お薦めしたい。

*1:今は入手困難でもある。

*2:私は持っていないが『ラテン文法演習編(上)』が出版されている。おそらく下巻に相当する部分も、神学校内では何らかの形で用いられているのだろう。