したがって、民謡的な詩も多い。後の近体詩の切り詰められた表現を可能にするのは、しかし、この間の長い伝統の中で定着した語にまつわるイメージでもある。この本に採られた作品くらいは、常識として知っておかなくてはならないのだろう。
無名氏の作の中でもとりわけ印象的なのが、姑に追い出された嫁が、最後には入水し、それを聞いた元の夫も首をくくるという、悲しい長篇「孔雀東南飛」である。姑が息子に対して放った言葉を引用しておく。
何 乃 太 區 區 何ぞ乃ち太だ区区たる。
此 婦 無 禮 節 此の婦 礼節無く、
擧 動 自 専 由 挙動 自ら専由なり。
吾 意 久 懐 忿 吾が意 久しく忿りを懐く、
汝 豈 得 自 由 汝 豈に自由なるを得んや。
東 家 有 賢 女 東の家に賢女有り、
自 名 秦 羅 敷 自ら秦羅敷と名づく、
可 憐 體 無 比 可憐 体 比い無し
阿 母 爲 汝 求 阿母 汝が為に求めん、
便 可 速 遣 之 便ち速かに之れを遣るべし、
遣 之 愼 莫 留 之れを遣り慎みて留むること莫かれ。
「どうしておまえは、そんなに意固地なのだ。あの女は礼儀知らずだ。勝手放題なふるまいをしおって。もう前から、わたしの胸は煮えくりかえっておる。おまえにも勝手はゆるしませんぞ。ほれ、この近所の家にかしこい娘がいる。自分で秦羅敷といっておるほどの器量よしじゃ。可愛らしいことといったら、あんな様子の良さはまたとないぞ。母が、おまえのためにもらってやろう。だから、あの女は早く出しておしまい。よいか、出すのですぞ。ここに置いてはなりませんぞ。」