- 作者:ウィリアム・シェイクスピア
- 発売日: 1983/10/01
- メディア: 新書
魔術を操る主人公と、彼に仕えて様々な幻想を見せる妖精たち。おとぎ話的ロマンス劇の極地である。原文で読めば詩的美しさをも堪能できるらしい。
ゴンザーローが語る未開社会的理想郷(第2幕第1場)は、モンテーニュ『エセー』中の「食人種について」(第1巻第31章)に影響を受けたものらしい。先日私が読んだ関根秀雄訳では「カンニバルについて」となっている。
駄洒落として訳されているところの原文を調べてみた。第4幕第1場のステファノーのセリフ。
静かにしねえか、化け物。これはこれはシナの樹様、この毛皮は私の上着でしょうな? シナの樹にかかるとは気にかかる品だ。さてと、シナの樹がくださる上着をつけて浮気しな、かな。
オックスフォードのテキスト。
The New Oxford Shakespeare: The Complete Works: Modern Critical Edition
- 作者:Shakespeare, William
- 発売日: 2016/12/27
- メディア: ハードカバー
Be you quiet, monster. ―Mistress Lime, is not this my jerkin?
Now is the jerkin under the lime. Now, jerkin, you are like to lose your
hair and prove a bald jerkin.
予想通りであるが、まったく自由に訳されている。訳しようがないのだから仕方ないのではあるが。
Lime の元の綴りは line であって、普通のテキストではそのまま印刷されている。一般に lime tree のこととされているが、line は line であって細い紐のことであるとする辞書もある。
「under the lime」のところの注。
Below the lime tree (spelt line in the Folio); south of the equator; below the waist. (Also a possible allusion to the proverb “Thou hast stricken the ball under the line”, meaning ‘You have cheated’; Stefano has taken the jerkin from the lime tree.)
「lose your hair」のところの注。
The loss is caused south of the equator either through tropical disease, or by sailors who customarily shaved the heads of passengers when they crossed the equator for the first time; below the waist, by contracting venereal disease.
どうも赤道以南と尾籠な方面とに対するイメージを喚起することを狙っているらしい。
ちなみに筑摩書房の全集(第3巻)の和田勇一訳とその注。
黙ってろ、化物。しなの木様。これは私の下着でございますか?〔しなの木から下着を取って〕さて、これで、下着は木の下に降りた。なあ、下着君、日の下はとても熱いから、今に毛が抜けて、禿になってしまうぜ。
原文 under the line(しなの木の下に)は、「赤道直下」という意味があるので、両方にかけて、赤道直下では、暑さのために禿になることがあるというのに、ひっかけた洒落。
暑さのせいで禿げるのかどうかはともかく、一応赤道への言及がある。Jerkin を下着としているのは、多少とも下へのほのめかしがあることを考慮してなのか、ただの誤訳なのか判断しかねる。