本の覚書

本と語学のはなし

シャーロック・ホームズ全集 第2巻 最初の事件/コナン・ドイル

 前半は第1巻から続くベアリング・グールドの序文。第2巻ではワトソン、モリアーティ教授、そしてベイカー街221B の実在を仮定した研究の話。
 ホームズとワトソンが住んでいた頃、ベイカー街に221という番地は存在しなかった。ではどこを指してワトソンは221B と言っていたのか。議論は百出するが、ベアリング・グールドが最も納得するのは現在の31番地(当時の72番地)説であるそうだ。大半の人にはどうでもいいことだろうけど。


 後半は最初の事件2つ。「グロリア・スコット号」と「マスグレイヴ家の儀式」(ともに『思い出』所収)である。
 前者は本当に最初の事件で、ホームズがまだ学生であった頃のこと。後者は学生時代の友人に依頼されたもので、ワトソンと出会う以前のことである。なお、両者の学生生活についての記述にかみ合わないところがあるため、ホームズは2つの学校に通っていたのだろうと考える人もある。ベアリング・グールドは、「グロリア・スコット号」で言うカレッジはオックスフォード、「マスグレイヴ家」のそれはケンブリッジのことだと考えている。
 それはともかく、「グロリア・スコット号」が決定的に重要であるのは、ホームズが探偵を職業として選択することを明確に意識する契機となった点にある。学友トレヴァーの実家に遊びに行ったとき、彼の父親にこう言われたのだ。

『・・・ホームズさん、どうやって見つけられたかは知りませんが、あなたの手にかかったら、実際にいるんだろうと小説に出てくるんだろうと、探偵という探偵は子供も同然ですな。これをあなたの一生の仕事になさるといい。いくらかこの世の中を知っている男の忠告としてお聞き下さい』
 ワトソン、こんなこと言っても信じられんかもしれないけれど、ぼくの才能を買いかぶって認めてもらった上にこの忠告を与えられたとき、ぼくは生まれて初めて、これまでただの趣味だったものを職業にしてもいいなと思ったのさ。(p.105)

“‘... I don't know how you manage this, Mr. Holmes, but it seems to me that all the detectives of fact and of fancy would be children in your hands. That's your line of life, sir, and you may take the word of a man who has seen something of the world.’
“And that recommendation, with the exaggerated estimate of my ability with which he prefaced it, was, if you will believe me, Watson, the very first thing which ever made me feel that a profession might be made out of what had up to that time been the merest hobby.


 英語の原文はネットでも読めるし、電子書籍でもほとんどただ同然の金額で購入できる。私は紙の本も注文したのだが、3分冊の内まだ1冊は届いていない。
 今引用したところを見る限り、初級者向けではないにしても、それほど難しいことはないように思われる。英文学の書として捉えるならば、易しい部類に入るだろう。
 英語の専門はジェイン・オースティンであるにしても、シャーロック・ホームズをサブに据える余裕はあるのではないか。