本の覚書

本と語学のはなし

奪取

若君も、あやしと思して泣いたまふ。少納言、とどめきこえむ方なければ、昨夜(よべ)縫ひし御衣どもひきさげて、みづからもよろしき衣着かへて乗りぬ。(若紫22)

姫君もわけの分らぬ気持ちでお泣きになっている。少納言〔女房〕は、もうお止め申すすべもないので、昨夜縫ったお召物を手にして、自分でも見苦しくないのに着替えて車に乗った。


 源氏は以前「手に摘みていつしかも見む紫のねにかよひける野辺の若草」と詠んでいる(若紫16)。この若草は、紫草の象徴する藤壺と血縁関係にあって(根にかよひける)、その面影を宿している。しかし、このとき紫の上は10歳くらいに過ぎない。ほとんど幼女のかどわかしだ。
 夕顔の死体の処理のときには、某芸能人の事件を思い起こしてしまったし、ただの好色物語と侮ってはいけないようだ。