本の覚書

本と語学のはなし

『ふたりの証拠』


アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』(堀茂樹訳、ハヤカワepi文庫)
 『悪童日記』の続編になるが、趣はかなり異なる。おばあちゃんの家に残った双子の片割れリュカ(LUCAS)をめぐる、三人称の物語である。登場するのは、戦争やその後の全体主義的支配の中で、あるいはそれとは全く無関係に、心に傷を負った者たちばかりである。双子がカイエを書き綴るために紙と鉛筆を仕入れた本屋のヴィクトールは、一冊の本を書くために、本屋をリュカに譲って、故郷の姉の下に身を寄せる。やがて姉を殺し、死刑に処せられる。反体制思想の持ち主の夫を殺されたクララは、リュカの愛人となっても夫以外の人間を愛すことはできなかった。やがて反体制運動に身を投じ、拘束された後、廃人となって戻ってくる。父の子を出産し家を出たヤスミーヌは、リュカに引き取られ、恐らくは子どもとともに家を出て行こうとしたがために、後にリュカの手にかかる。残された不義の子マティアスは、足に障害を持っており、優れた知性を持ちながら強烈なコンプレックスのために、やがて首をくくる。などなど。
 最後にようやく、国境を超えて行った双子のもう一方のクラウス(CLAUS)が故郷に戻ってくる。リュカが姿を消してから20年後のことである。読者はずっとリュカとクラウスの双子は、実は同一人物なのではないかと疑ってきたはずだが、ここでもその答えは判然としないままだ。しかも、残り数ページでとんでもないどんでん返しがある。


 さっそく三部作の最後『第三の嘘』を読み始めた。クラウスの一人称の物語らしい。「どんでん返し」の設定に沿っているようだ。「びっこを引いらっしゃるのは、何かの事故のせいかしら?」と不気味な質問をされる。ひょっとしてクラウスはマティアスであるということなのか?

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)

ふたりの証拠 (ハヤカワepi文庫)