本の覚書

本と語学のはなし

『波乱の時代〔特別版〕』 〔31〕


アラン・グリーンスパン『波乱の時代〔特別版〕 サブプライム問題を語る』(山岡洋一訳,日本経済新聞出版社
 特別版は原著ペーパーバック版に追加されたエピローグを訳出したものである。
 こういうことである。原著ハードカバー版は2007年9月に出版された(原稿が印刷に回されたのは6月)。日本語版は同年11月に出版された。原著ペーパーバック版は2008年9月9日に出版された(原稿が印刷に回されたのは6月)。そこには当初の原稿執筆時にはまだ表面化していなかったサブプライム問題に言及したエピローグが付された。そして、その部分だけを日本語に訳した特別版が同年10月に出版されたのである。
 本編は今読んでいるが遅々として進まないので、先にこちらに目を通した。
 グリーンスパンは市場への政府の介入には懐疑的な人である。

 物質的な豊かさが目標であれば、わたしの見方では、世界市場資本主義に代わるものはない。世界市場資本主義の最大の弱点は、経済的報酬が公正に分配されていないと、きわめて多くの人が感じていることである。この問題だけは、本編二十一章で論じたように、しっかりとした対策がとられなければならない。ところが、この素晴らしい世界経済を放棄すべきだと、一部の論者が主張するようになってきている。その道を選べば、何億人もの人たちを悲惨な貧困から引き上げ、以前には先進国の上流階級にしかありえなかった生活水準を世界の多数の人たちが獲得できるようにしたパラダイムを逆転させることになる。(52頁)


 私は新聞を毎日しっかりチェックしているわけではないので、多々見落としはあるだろうが、今年2月9日付の日経新聞には、グリーンスパンが英紙フィナンシャル・タイムズの取材に対し銀行の暫定的国有化を認める発言をしたとある。その記事はこう結ばれている。

 グリーンスパン氏は市場の機能を重視する立場から、政府の関与を極力避けるべきだと主張してきた。公的資金の拡大や国有化に言及したことは持論を控えざるを得ないところまで危機感を高めていることを示している。