本の覚書

本と語学のはなし

【モンテーニュ】あの青春の日々の濃厚なキスも【エセー1.55】

 モンテーニュ『エセー』第1巻第55章「匂いについて」を読了する。

Mais à moy particulierement, les moustaches, que j'ay pleines, m'en servent. Si j'en approche mes gans ou mon mouchoir, l'odeur y tiendra tout un jour. Elles accusent le lieu d'où je viens. Les estroits baisers de la jeunesse, savoureux, gloutons et gluants s'y colloyent autresfois, et s'y tenoient plusieurs heures apres. (p.315)

もっともわたしの場合は特に、このたっぷりと生えた口ひげが、その役割を果たしてくれる。手袋やハンカチを口ひげに近づけたりすると、その匂いが一日中とれない。どこに行っていたのかも、ひげのせいでわかってしまう。あの青春の日々の濃厚なキスも、おいしくて飽くことをしらぬ、ねっとりした感触が、あのころは、何時間たってもそこに残っていたものだ。(p.325)

 モンテーニュは聖人君子というわけではない。センシュアルな面も多分に持ち合わせているし、それを隠そうとするでもない。ときどきそうした情熱がほとばしるような文章に出会うことがある。


 第1巻は残り2章である。読み始めた頃は、ここまで来ることができると信じていたわけではない。大概の私の企てのごとく、中途で投げ出す可能性の方が高いと考えていたはずである。
 今のペースで続けるならば、時間はかかるにしても、最後まで読み通せるだろう。

Newton 2024年5月号【天気と気象】

 第1特集は天気と気象。
 気象現象を、似たような原理がはたらく身近な例で説明する。たとえば、積乱雲で生じるおそろしい突風は、コーヒーに注いだミルクが、カップの底で一気に横に拡がるのと同じことであるという。


 新しい仕事を始めたことで、「ニュートン」をどう読んでいくのか、なかなか難しい課題となってしまった。
 職場の休憩時間が一番よさそうではあるけど、それは「ニューヨークタイムズ」を読むのにも好都合な時間であるかもしれない。
 まだ3年ちょっと自動的に送られてくるはずだし、宇宙関連の最新の事情にしばらくはキャッチアップしていきたいとは思っているので、読まずに放置するという選択肢はないのであるけれど。

【モンテーニュ】わが『エセー』は中間地帯で細々と生きていく【エセー1.54】

 モンテーニュ『エセー』第1巻第54章「どうでもいいことに凝ったりすることについて」を読了する。
 信仰においても、何事においても、一番上と一番下が案外相通じて、最上のものを享受することがある。その中間にあるものが、危険で、能力もなく、やっかいで、世間をかきまわすのである。

que si ces essays estoyent dignes qu'on en jugeat, il en pourroit advenir, à mon advis, qu'ils ne plairoient guiere aux esprits communs et vulgaires, ny guiere aux singuliers et excellens: ceux-là n'y entendroient pas assez, ceux-cy y entendroient trop; ils pourroient vivoter en la moyenne region. (p.313)

「この『エセー』がひとさまの判断にあたいするとしても、わたしの考えではですね、どうやら、ごくありきたりの人々にも、非凡で、優れた人々にも、あまり気に入ってもらえそうにありませんね。だって、前者には、よくわからないでしょうし、後者には、あまりにもわかりすぎてしまうでしょうからね。というわけで、わが『エセー』は、その中間地帯で、細々と生きていくことになりそうです。」(p.320-1)

 だが、モンテーニュ自身は、自分は決して上でも下でもなく、中間にある人間なのだと考えるのである。