本の覚書

本と語学のはなし

それが私とあなたの間で何だというのでしょう【ヘブライ語】

Biblia Hebraica Stuttgartensia

Biblia Hebraica Stuttgartensia

  • 作者:K. Elliger
  • 出版社/メーカー: Amer Bible Society
  • 発売日: 1990/06/01
  • メディア: ペーパーバック
旧約聖書〈1〉創世記

旧約聖書〈1〉創世記

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/03/05
  • メディア: 単行本
 創世記23章14節から16節。翻訳は岩波の月本訳。

וַיַּ֧עַן עֶפְרֹ֛ון אֶת־אַבְרָהָ֖ם לֵאמֹ֥ר לֹֽו׃
אֲדֹנִ֣י שְׁמָעֵ֔נִי אֶרֶץ֩ אַרְבַּ֨ע מֵאֹ֧ת שֶֽׁקֶל־כֶּ֛סֶף בֵּינִ֥י וּבֵֽינְךָ֖ מַה־הִ֑וא וְאֶת־מֵתְךָ֖ קְבֹֽר׃
וַיִּשְׁמַ֣ע אַבְרָהָם֮ אֶל־עֶפְרֹון֒ וַיִּשְׁקֹ֤ל אַבְרָהָם֙ לְעֶפְרֹ֔ן אֶת־הַכֶּ֕סֶף אֲשֶׁ֥ר דִּבֶּ֖ר בְּאָזְנֵ֣י בְנֵי־חֵ֑ת אַרְבַּ֤ע מֵאֹות֙ שֶׁ֣קֶל כֶּ֔סֶף עֹבֵ֖ר לַסֹּחֵֽר׃

14 エフロンはアブラハムに答えて言った、「どうか、
15 ご主人、お聞きください。銀四百シェケルの土地、それが私とあなたの間で何だというのでしょう。あなたの死者をを葬りなさい」。
16 アブラハムはエフロン〔の言葉〕に聞き従った。アブラハムはエフロンに、ヘト人が聞いている前で、彼が口にした〔量の〕銀を支払った。それは商人の間で通用する銀四百シェケルであった。

 妻サラを葬るために、アブラハムヘブロンのマクペラをヘト人(ヒッタイト人)のエフロンから買い取ろうとする。エフロンは無償で差し上げましょうと提案するが、アブラハムは十分な銀を支払うと主張する。
 そこでエフロンが提示したのが銀400シェケルであった。1シェケルは約11.5グラム。当時の売買契約文書の相場からして、約4.6キロの銀というのは「畑地の価格としては破格の高額」であるという。
 商人の間で通用する銀とは、「おそらく純度の高い銀のこと」。アブラハムは値切ることなく、相手の言い値をそのまま受け入れ、さらにはそれを商用として通用する良質の銀で支払ったということであるようだ。


BIBLE navi (バイブルナビ) 聖書 新改訳 解説・適用付

BIBLE navi (バイブルナビ) 聖書 新改訳 解説・適用付

 普段読んではいないのだけど、『BIBLE navi』の解説・適用を見てみた。この個所に二つの注が付いているので、両方ともまるごと書き抜いてみる。

アブラハムとエフロンの間で行われた丁寧なやり取りは、この時代の典型的な取り引きだった。エフロンは親切に、アブラハムに自分の土地を無料で与えると言った。アブラハムは代金を払うと言って譲らなかった。エフロンは礼儀正しく、あまり重要なことではないがと言いながら土地の代金を提示した。アブラハムは400シェケルの銀を支払った。両者ともに取り引きの過程を把握していた。もしアブラハムが土地を贈り物として譲り受けていたら、それはエフロンを侮辱することになり、エフロンはその申し出を撤回していたことだろう。今日も中東では、店員と客の間でこのような駆け引きが行われることが多い。

400シェケルの銀は、アブラハムの購入した土地の代金としては高い。これは1つには、ヘテ人は一般的に外国人に自分たちの土地を売りたがらなかったため、この取り引きでのアブラハムの立場は不利だったという事情もある。
もう1つは、この時代の習慣で、売り手は買い手が半額に値切ることを予想し、土地の公正な価格の倍の値段を提示したという事情もある。しかし、アブラハムは値切ることをせず、提示金額をそのまま支払った。自分はこの土地を受け取るのが当然とは考えなかったのだ。神がその土地をアブラハムに約束されていたにもかかわらず、彼はエフロンから、なるべく損をしないように取り上げてやろうとは思わなかったのだ。

 金額交渉をするには不利な状況でもあったろうが、ここではそのような交渉はしないということに意味があったのではないだろうか。


聖書

聖書

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1980/11/25
  • メディア: 単行本
 これも普段読んではいないが、バルバロ訳の注も見てみた。

今の近東でもそうだが、この人たちは表面は丁重であるが、取るべきものは必ず取る。アブラハムは寛大で誇り高い人であるが、ヘト人がただでくれるという申し込みにはけっしてのらない。払うべき金は払う。

 ちなみに、ダビデはアラウナの麦打ち場と牛を譲ってもらったとき、アラウナが無償で提供すると申し出たのを拒んで、こう言っている(サムエル記下24章24-25節)。

24 王はアラウナに言った。「いや、わたしは代価を支払って、あなたから買い取らなければならない。無償で得た焼き尽くす献げ物をわたしの神、主にささげることはできない。」ダビデは麦打ち場と牛を銀五十シェケルで買い取り、
25 そこに主のための祭壇を築き、焼き尽くす献げ物と和解の献げ物をささげた。主はこの国のために祈りにこたえられ、イスラエルに下った疫病はやんだ。(新共同訳)