本の覚書

本と語学のはなし

新約聖書の釈義 本文の読み方から説教まで/G. D. フィー

 「釈義」というのは「聖書テキストの意味の歴史的探究」のことだという。つまり、それが書かれた当時において何を言わんと意図したのかを探るのであって、書かれたことの現代的な意義を云々することではない。
 本書では釈義の方法をマニュアル化して提示する。ネストレのテキストと共観表、バウアーの辞書の使い方なども簡単に説明してくれる。こういうことは神学校にでも行って、実地に訓練を受けるべきなんだろうけど、私のように学者だの聖職者だのになるつもりのない人間は、そこまでして学ぶこともできない。ところが、こういうことを教えてくれる本はほとんどない。マニュアルだから大して面白くもないけど、貴重な本である。


 副題には「説教まで」とある。聖書の記者たちが一世紀に意図したことを踏まえつつ、それを現代に生きる我々にとって生きた言葉とする作業を「適用」というが、説教は適用の修辞学というべきものである。
 わずかなページを割くのみであるが、本書では適用に関しても手引きをしてくれる。実際に牧師がどの程度の学術的釈義を経て、適用を行い、それを説教に仕立てているのか知らないが、多分この本の水準まで努力している人はあまりいないのではないだろうか。


 最後に参考図書がたくさん紹介されている。ほとんど英語の本だけど、日本語の翻訳のあるものや、日本語で読める類書も、訳者が必要に応じて書き足してくれている。これもまた嬉しい。