本の覚書

本と語学のはなし

ユダヤ古代誌5/フラウィウス・ヨセフス

 この一巻はほぼすべてヘロデ大王の統治について。苛烈、残忍であったとも言われるが、当時の地中海世界の中でも極めて有能な政治家であったのは確かなようだ。


 マタイによればイエスは生まれると直ぐにエジプトに逃れ、ヘロデの死後、その後を継いだアルケラオスの支配するユダヤ地域を避けて、ガリラヤのナザレに行ったことになっている(マタイはイエスが元来ナザレの出身であるとは言っておらず、したがってルカの伝えるように旅の途中に飼い葉桶に産まれたなどとは想定していないようだ。我々の親しんでいるイエス誕生物語は、マタイとルカを合成したものである)。
 そのアルケラオスは、統治10年にしてカエサルの怒りを買い、現在のウィーンに流された。こうしてユダヤ地域は属州シリアに編入され、ローマ代官の統治するところとなった。ローマの有力者と対等に渡り合ってきた父ヘロデの狡猾さも胆力も、到底相続しうるものではなかったのである。


 なお、ガリラヤ地域は別の息子ヘロデ・アンティパスが受け継いだ。福音書で大王死後にヘロデと呼ばれているのは、この人である。洗礼者ヨハネを殺し、ルカによればイエスの処刑を巡ってピラトと和解したのは、この人である。
 「では、何を見に行ったのか。しなやかな服を着た人か。しなやかな服を着た人なら王宮にいる」(マタ11:8)。ガリラヤの王宮のあったティベリアスにイエスが行ったという記録はない。おそらくその事もまた、イエスの活動の性質を物語るであろう。