本の覚書

本と語学のはなし

毒爪【ラテン語】

quos tamen quasi ungues scalpentium fervidus tumor et tabes et sanies horrida consequebatur.

わたしは爪でひきかかれたようにはれあがり、膿をもってただれ、恐ろしい血膿を生じたのである。(服部英次郎訳)

ところがその結果、丁度、爪で掻きむしったように、熱い腫れものとただれと気色の悪い血膿が生じました。(宮谷宣史訳)

upon which (as after scratching nails) followed an impostumation, and a putrefied matter. (transl. by William Watts)


 アウグスティヌス『告白』3.2.4からの引用であるが、「爪で搔きむしった」というところの原文が今一つすっきりしない。直訳では日本語訳のようになりそうにはないし、そもそもどう直訳すべきかもよく分からない。ロエーブの英訳も、「after scratching nails」では「爪をひっかいた後」もしくは「ひっかくための爪の後」となりそうで、一体なんのことか見当もつかない。
 と思ってネットを調べていたら、あるサイト(Our Lady’s Warrior)の訳にこんなのを見つけた。

Still, just as if they had been poisoned fingernails, their scratching was followed by inflammation, swelling, putrefaction, and corruption.

 これでなんとなく得心がいった。「爪」は最初の関係代名詞と同格なのだろう。「搔きむしる」は動詞の現在分詞・複数・属格であるから、「搔きむしる人々の爪」と考えるべきなのだろう。上の訳に「empoisoned」とあるのは、爪に毒を塗る人たちが現実に存在しており、「掻く」という動詞が彼らの行為を表すために術語的に使われていたということなのだろうか?
 そうだとすると、こういうことになる。舞台の上で演じられていたことは、爪に毒を塗る者たちの爪のようなものであり、そこから結果するのは、皮膚の腫れ、ただれ、血膿であった。
 これで合ってるのかな?


Confessions, Volume I: Books 1-8 (Loeb Classical Library)

Confessions, Volume I: Books 1-8 (Loeb Classical Library)

  • 作者:Augustine
  • 発売日: 1912/01/15
  • メディア: ハードカバー
告白 上 (岩波文庫 青 805-1)

告白 上 (岩波文庫 青 805-1)

告白録 (キリスト教古典叢書)

告白録 (キリスト教古典叢書)