本の覚書

本と語学のはなし

詩のこころを読む/茨木のり子


 書けるものなら、私が作りたいのは、俳句より短歌より、断然自由詩である。でも、この本を読んでいて、さまざま紹介される詩を鑑賞して、なんだかちっとも心の動かないのはどうしようもない。私はこれまで詩人でなかったように、これからも詩人にはなれないのだ。古典全集に入ってるような古い和歌や俳句の解釈を、心の底から味わってるように錯覚しておれば、それで十分な感性なのだ。
 だけど、『貧乏物語』のあの河上肇が詩を書いていて、それが面白いような気がしたのは、あっぱれな収穫であった。

   老後無事     河上肇


 たとひ力は乏しくとも
 出し切つたと思ふこゝろの安けさよ。
 捨て果てし身の
 なほもいのちのあるまゝに、
 飢ゑ来ればすなはち食ひ、
 渇き来ればすなはち飲み、
 疲れ去ればすなはち眠る。
 古人いふ無事是れ貴人。
 羨む人は世になくも、
 われはひとりわれを羨む。


 まあ、これなんかは禅の物言いそのままなのだけど、それゆえ私には新鮮さはまったくないのだけど、こうした心の上に書かれた他の詩が実に好ましくて、それではこの伝でなにか書けないかしらと、つい思ってしまうのである。

詩のこころを読む (岩波ジュニア新書)

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