本の覚書

本と語学のはなし

峠(下)/司馬遼太郎


 河井継之助は死に際して自分の棺を下僕に作らせ、その様子をしっかと見ていたという。その最期を書きたくて、司馬は『峠』を構想したのではないだろうか。
 なるほど人物としては面白い。だが一藩のリーダとしてはどうだろう。内部に対しては腹の内を誰にも明かさずただ威圧あるのみで、外部に対しては決定的に外交が下手であった、と言うより、ほとんど無策であった。己の力量を恃みすぎ、相手に働きかけることがまったく出来ないようなのだ。
 小千谷において中立の方針が立ち行かなくなったのには、確かに不運もあった。会津兵の軍事行動は継之助の意思とは無関係だっただろうし、官軍側の聞く耳を全く持たない稚拙な態度も継之助の想定外のことだったろう。だが、事態は転がるべき方向に転がっただけであり、そのようになるべきはずでなかったと言うには、それまでの外交的な無為があまりに甚だしいと思うのである。
 司馬の考えるサムライの美学によって、ずいぶん濃い色の色眼鏡を付けさせられたような気がしながら読んだ。

峠 (下巻) (新潮文庫)

峠 (下巻) (新潮文庫)


上巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20121212/p1
中巻:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20121222/p2

広告を非表示にする