本の覚書

本と語学のはなし

リチャード三世/シェイクスピア


 哲学は畢竟シェイクスピアを読む営みに尽きるという人があったとしても、あやしむに足りない。それどころか、我々が生きるに必要なことはすべてシェイクスピアの中にあるとすら思うことがある。

リチャード では言おう、私はあなたの娘御を愛している、心から。
エリザベス あの娘の母親が思っていたとおりだ、心から。
リチャード 思っていたとおりとは?
エリザベス おまえが私の娘を愛していると言う心はからだと。
 おまえはあの娘の兄弟も愛してくれた、からっぽの心で。
 だから私はおまえにお礼を言おう、からっぽの心で。(第四幕第四場)


 言葉遊びのようだ。「心から」を「心はから(っぽ)」と捻じ曲げ、やりこめる。こんな時は気が向けば原文も見る。

 KING RICHARD
Then know, that from my soul I love thy daughter.
 QUEEN ELIZABETH
My daughter’s mother thinks it with her soul.
 KING RICHARD
What do you think?
 QUEEN ELIZABETH
That thou dost love my daughter from thy soul:
So, from thy soul’s love, didst thou love her brothers;
And, from my heart’s love, I do thank thee for it. (IV. iv)


 原文では from の用法をめぐる応酬となっている。一方は起点として、一方は分離として理解しているように見える。
 ただ、同じ個所を福田恆存はまた別なニュアンスで訳しており、どう解すべきであるかはよく分からない。福田訳にはよほど注意が必要だというだけのことかも知れないが。

リチャード王 それなら言おう、娘御のエリザベス殿にひそかに想いを懸けていたのだ。
エリザベス その娘の母親も、心ひそかに、もしやと疑いを懸けていた。
リチャード王 というのは?
エリザベス それはこういうこと、私の娘を、お前は心から愛しておいでだ、心だけで。王子たちも、そうして愛してくださった、心だけで。それゆえ、私も、お申出でにはお礼を言おう、心からの愛だけで。(第四幕第四場)


 来年は鷗外関係の読書の合間を縫って、月一冊くらいのペースで読んでいきたい。いずれは原文にも挑戦してみなくてはいけないと思う。若干古めかしい英語だが、そんなに恐れるほどのものではない。解釈の難しい部分もあるだろうけど、基本的には平易に綴られているように見える。

【参照】
Complete Works of William Shakespeare (Wordsworth Royals Series)

Complete Works of William Shakespeare (Wordsworth Royals Series)

リチャード三世 (新潮文庫)

リチャード三世 (新潮文庫)


前回:http://58808.diarynote.jp/200704301644130000/

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