第二部でいったん勝利したヨーク家のエドワード四世であったが、ランカスター家のヘンリー方に窮地に追い込まれ、さらに再逆転。しかし、弟のリチャード(後のリチャード三世)には人に言えない腹黒い野心がある。その展開は次の『リチャード三世』で描かれることになるだろう。
シェイクスピアの魅力の一つは比喩にある。これまで無関連だった世界に突如あるネットワークが通じ、視界が開け風が吹き抜けるような感覚。道化は秩序に揺さぶりをかけるが、創造するのは苦悩の底にうめかれる比喩であるかもしれない(この作品が、というわけではないけど)。
零落の極みにおける一瞬の澄んだ諦念も好きだ。ヘンリー六世も囚われの身となりその境地に到達しかけるのだけど、歴史はそれを彼には許さなかったようだ。再びエドワード追討を企図し、再び捕らえられ、リチャードに殺される(史実かどうかは分からないが)。
だがおれの栄光も、いまは埃まみれ、血まみれだ、
かつてはおれのものであった猟園も、散歩道も、荘園も、
たったいまおれを見捨ててしまった、おれの領地で
残されたのはこのからだの長さだけの土地がすべてだ。
ああ、栄華も権勢も、しょせんは土と埃にすぎぬのか?
人間、どう生きようと、結局は死なねばならぬのか?(p.176)
引用はヨーク方に反旗を翻しランカスター方について戦死したウォリックのセリフ。傷つき横たわり、今はその体の下にある土地しか持つものとてない。しょせんそれが死というものであろうか。
- 作者:ウィリアム・シェイクスピア
- 発売日: 1983/10/01
- メディア: 新書
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第一部:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20121017/p1
第二部:http://d.hatena.ne.jp/k_sampo/20121103/p1