本の覚書

本と語学のはなし

「自負と偏見」中野好夫訳


 すっかり日記をつけない癖がついてしまった。プライベートのなかに仕事が入り込んできているせいか、なかなか書く気になれない。
 仕方ないので、『自負と偏見』から中野好夫訳のサンプルを書き抜いておく。原文は簡単だと言った割に、はかどっていないけど。

 “Would Mr Darcy then consider the rashness of your original intention as atoned for by your obstinacy in adhering to it?” (p.40)

「あら、そうだとするとね、ダーシーさんは、はじめあなたは、ずいぶん軽率なことをおっしゃった、でも、結局それを押し通して、実行さえしてしまえば、それで軽率さは消えてしまったという、そんなふうにでも考えていらっしゃるんでしょうか?」(p.79)


 直訳できない文章なので、訳者の癖が如実に表れる。あとがきで訳者も「英和対照用の訳ではない」と言っているとおり、割と自由に訳している。「原文で読むとこう面白いのだが、などという解説なしに、訳文だけを読んでもらっても、オースティン文学の面白さがわかってもらえるような、いわば一人歩きのできる翻訳」を念願したという。
 以前はもっと原文に即した硬い訳が好みだったのだけど、それは単に「英和対照用」に便利だからというだけの理由だったかもしれない。読む力が上がるにつれて、だんだんと翻訳上の自由大胆な工夫に対して鈍感になってきた。