本の覚書

本と語学のはなし

イーリアス 第1巻


 ギリシア語の勉強は熱心にやっている訳ではないけど、というか、熱心でないからこそ、テキストをプラトンの『国家』からホメロスの『イーリアス』に替えてみた。叙事詩ならば、いつどこで止めても、どこから始めても、構わない。今日久し振りに読んだのも、第1巻の26行目から。かなり以前に25行目で中断していたので、その続きである。
 原文と英訳はロエーブ叢書、和訳は岩波文庫(松平千秋)を使うが、第1巻に関しては『ホメリック・グリーク』(オクラホマ)に初心者向けの注釈が網羅されているのでこれも参考にする。辞書は通常オックスフォードのインターミーディエットを使うが、時々『ホメリック・ディクショナリー』(オクラホマ)も引いてみる。ホメロスに特化した辞書だからホメロスで使われる意味が直ぐに分かるし、多くはないが図版も載っている。

μή σε, γέρον, κοίλῃσιν ἐγὼ παρὰ νηυσὶ κιχείω
ἢ νῦν δηθύνοντ’ ἢ ὕστερον αὖτις ἰόντα,
μή νύ τοι οὐ χραίσμῃ σκῆπτρον καὶ στέμμα θεοῖο. (ll.26-28)

老いぼれよ、そのままここでうろうろするにせよ、また出直して来るにせよ、この洞なす船の傍らで、わしに姿を見せてはならぬぞ。気の毒だが笏杖も神の標(しるし)もお前には何の役にも立たぬであろう。(上p.12)


 「洞なす」というのは普通「うつろな」と訳される語で、ホメロスでは船を修飾するのにしばしば使われる。もともとは木をくり抜いて船をつくったからとも、船腹のふっくらとして豊かであるさまを形容するためであるともいわれるが、あまり意味のある言葉ではない。松平は「枕詞として大方は語調を整えるためだけのものであるから、以後この訳文では省略することが多い」と注釈で書いている。松平訳が非常に散文的なのも、こういうところに秘密がありそうだ。


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