『ベラミ』の杉訳。
レストランでフォレスチエ夫人がつぶやくように言う。
« Il n’y a pas de bonheur comparable à la première pression de mains, quand l’un demande : « M’aimez-vous ? » et quand l’autre répond : « Oui, je t’aime. »
最初に手を握り合う、あれに比べられる幸福はありませんわ。女の方が「愛して下さる?」と言うと、相手が「愛している。」と答えるあの時のね。(上127頁)
おや、と思ったのは、私は最初のセリフが男の方から言われるものと想像していたからである。単に「l’un」が男性形であるというだけの理由だが、辞書で調べたら、「l’un ... l’autre ...」という構文は両方が女性(名詞)である場合のみ「l’une ... l’autre ...」という形になるようだ。したがって、文法上はどちらのセリフをどちらが言おうと構わないということになる(たぶん)。
さて、その上で、どちらがどちらのセリフを言うべきなのだろう?
サービスでもう一つ。それを聞いたド・マレル夫人はシャンペンを飲み乾し、はしゃいで言う。
« Moi, je suis moins platonique. »
私のは、そんなにプラトニックじゃないわ。(同上)