本の覚書

本と語学のはなし

『1997年 世界を変えた金融危機』


●竹森俊平『1997年 世界を変えた金融危機』(朝日新書,2007年)
 1997年あたりの金融危機を概観するのに便利な本。
 ナイトの不確実性を強調する。経済で客観的予測の成り立つ領域は限られるという、素人が聞いても何ら驚かないような話である。しかし、最後の小見出しが「人類は失敗から学べないのか」となっていて、経済の舵取りはギャンブルのようなところもあるのだと思い知らされる。
 グリーンスパンを高く評価しているが、この本が書かれたのは既にサブプライム問題が表面化している時期だ。「はたして、90代に達する頃に、彼もフリードマンのように過ちを認めなければならないのだろうか」(175頁)。経済の予測はやはり難しいもので、そんなに待つことなくあっさり非を認めてしまっている。


 しかし、一番不気味なのは日本の組織についての記述。

 日本の場合、一番恐れるべき「不確実性」は、凶暴な国際資本の力ではなく内なるものである。97年、98年のマイナス成長をもたらした原因も、「失われた10年」をもたらした原因も、さらには国民の年金に対する信頼を地に落とす記録漏れが招かれた原因も、外ではなく内にある。外部からの統制、監督が不十分で、自己の論理だけで生き残る組織の闇を解消することがなくては経済の安定はない。(227頁)