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『翻訳家の仕事』

岩波書店編集部編『翻訳家の仕事』(岩波新書
 玉石混交というか、翻訳者が名エッセイストとは限らないというか、嫌味な自慢を垂れ流すしかできない人もいるというか、謙遜を装ったふうな自慢が一番不潔に見えるというか、でも、いろんな翻訳者のつぶやきを聞くことができて楽しかった。
 古典新訳文庫で活躍している人の名前もけっこうみかける。『変身』を訳した丘沢静也は白水社版『城』の改行の多さに苦言を呈している。「改行を翻訳に反映させることは簡単なのに、なぜ飼い主の意向を無視したのか」。白水社版訳者の池内紀も文章を寄せている。けれど、池内、カフカを「飼い主」とは思っていない。「二人三脚。いや、もっと近い関係。二人で一人、ひとり二役」。仕事中に名前を聞かれたら、「ぼく、フランツ・カフカです」と答えただろうと言う。
 沼野充義の「『ここまで読みきった以上、それをどう訳すか、日本語でどう表現するかは、訳者の勝手だ!』という夢のような瞬間」にも憧れる。しかし、私自身の感覚からすると、野崎歓の「優れた翻訳とは、どうしたって『翻訳調』を帯びるものではないだろうか」というあたりに落ち着きそうだ。


翻訳家の仕事 (岩波新書)

翻訳家の仕事 (岩波新書)

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