本の覚書

本と語学のはなし

【モンテーニュ】王様然としていばりくさっている小者【エセー1.43】

 モンテーニュ『エセー』第1巻第43章「奢侈取締令について」を読了する。
 奢侈取締令はモンテーニュの頃に何度か出された華美を禁ずる法令であるが、宮廷人が贅沢をやめなかったために、効果は上がらなかった。
 まず王侯から質素な身なりをすれば、それが自ずと法令になるのだし、派手な服装や豪華な宝飾は大道芸人と娼婦にのみ許した古代の例に従い、名誉心を利用するべきでもある、という。
 さらにモンテーニュは、新たに持ち込まれた習慣にまでかみつく。これらもまた、王自ら嫌っていただきたいというのである。


et que, contre la forme de nos peres et la particuliere liberté de la noblesse de ce Royaume, nous nous tenons descouverts bien loing autour d'eux en quelque lieu qu'ils soient: et comme autour d'eux, autour de cent autres, tant nous avons de tiercelets et quartelets de Roys; (p.270)

さらには、父祖の作法や、このフランス王国の貴族の自由な特権にもかかわらず、王様がたがどこにいようと、たとえずいぶん離れていようと、こちらが帽子を脱いでいないといけないこと、それも国王のまわりならまだしも、他の一〇〇人のまわりでも、脱帽していろという習慣も、なんとかならないものか――なにしろ、王様然としていばりくさっている小者がたくさんいるのだから。(p.233)

 いくつか並べられた後なので省略があるが、que以下の新たな習慣も、王自ら嫌っていただきたいということである。翻訳では「という習慣も、なんとかならないものか」と補ってある。
 couvertとかdécouvertという分詞は、形容詞として、帽子を被っているとか被っていないとかいう意味で使われることがある。英語のcoveredやuncoveredと同様である。
 「王様然としていばりくさっている小者」は完全なる意訳である。これについては、宮下が注に書いているので、引用しておく。

「いばりくさっている小者がたくさん」の原文は、tiercelets et quartelets de Rois〔ヴィレの綴りではRoys〕である。tierceletは、ハヤブサなどの猛禽類のオスのことで、メスよりはるかに小さい(tiersは「三分の一」の意味)。このことから比喩的に、「~の小者」といった意味で用いられる。そこでモンテーニュは、さらにquartelets「~の四分の一しかない小者」という造語を、付け加えたのだろう。拙訳は、そうしたニュアンスを活かして意訳しておいた。(p.235)