本の覚書

本と語学のはなし

人さまざま/テオプラストス

 テオプラストスはアリストテレスの跡を継いで、学園の二代目学頭になった人だ。著作の数も多く、興味の範囲も多岐にわたるが、後世に残されたのはわずかな文章のみである。
 『人さまざま』は抽象的な哲学の本ではない。さまざまな愚かしい人たちの言動を、戯画的に切り抜いて集めた標本のようなものであり、喜劇作家のネタ帳のようでもある。公刊する意図はなく、個人的な、あるいは限られたサークル内の楽しみのために書かれたものかもしれないと推測されている。
 とって付けたような教訓的な結語は、後に別人の手によって加えられたものらしい。テオプラストスは、おそらくもう少し大らかに人間の愚かしさを眺めていたのだろう。


 高校時代、ある友人に面白い本を教えて欲しいと言われて、ちょうど読んだばかりの『人さまざま』を紹介した。だが、彼にはあまり面白くなかったようだ。
 私は自分の嗜好を人に明かすことがほとんどない。こういうことを経験しながら、だんだんと自分の感覚を恥ずべきもの、隠すべきものと考えるようになったのだろう。
 ここだから言うのであって、現実に私の周りにいる人たちには決して言わないだろうが、『人さまざま』はやはり面白いのである。