本の覚書

本と語学のはなし

【ドイツ語】それにひきかえおれたちのギロチンロマンスときたら

Dantons Tod (German Edition)

Dantons Tod (German Edition)

ゲオルク・ビューヒナー全集

ゲオルク・ビューヒナー全集

 ドイツ語でゲオルク・ビューヒナー (1813-37) の『ダントンの死』を読み始めた。フランス革命を演劇にしたものである。
 原文は紙の本を注文したが、当分届きそうにないので、無料で入手できるキンドルのテキストを用いる。
 翻訳は新しい全集。分売不可の2冊組。これで全部である。しかも、ビューヒナーの書いたものはせいぜい半分程度。あとは資料や解説である。
 寡作の人だ。亡くなったのが23歳であるし、職業文人というわけでもない。自然科学を研究する革命家。『ダントンの死』は亡命資金を稼ぐために5週間で書き上げたげ戯曲である。
 文学作品としては、ほかに短編小説『レンツ』(未完)、戯曲『レオンスとレーナ』と『ヴォイツェク』(未完、断片)があるのみ。政治的文書『ヘッセン急使』や子ども時代、学生時代の書き物、書簡を合わせても、大した量にはならない(河出書房新社の全集は1冊で完結している)。


 実を言えば、ビューヒナーを読んだことはこれまで一度も無い。面白いと感じるかどうか見当もつかないうちに、取りかかってしまった。ただ、寡作であり、全体の把握が容易であるようだという理由でしかない。
 政治的には今こそ読み返されるべきものを含んでいそうだとか、シェイクスピアスピノザを好んだらしいというところに、勘が働いたとも言えるが、まあ、博打のようなものである。
 仮にビューヒナーを読み続けることは出来ないと判断しても、ニーチェに戻ることは多分ない。新しい作家を探すこともない。他にいい案がなければ、フランシスコ会訳の代わりに、ドイツ語聖書に取り組むことになるだろう。


 『ダントンの死』第1幕第1場より。

Camille. Du parodierst den Sokrates. Weißt du auch, was der Göttliche den Alcibiades fragte, als er ihn eines Tages finster und niedergeschlagen fand: »Hast du deinen Schild auf dem Schlachtfeld verloren? Bist du im Wettlauf oder im Schwertkampf besiegt worden? Hat ein andrer besser gesungen oder besser die Zither geschlagen?« Welche klassischen Republikaner! Nimm einmal unsere Guillotinenromantik dagegen!

カミーユ そいつはきみ、ソクラテスのもじりだな。きみは知っているんだね、あの偉大な哲人は、ある日弟子のアルキビアデスが眉を曇らせ、しょんぼり肩を落としているのを目にして、こう尋ねたものだ。「おまえは戦場で盾でも無くしたのか? かけっこか剣術の試合で誰かに負けたのか? それともおまえより上手に歌をうたうか、上手に竪琴をかき鳴らす奴がいたのか?」と。古代ギリシアの共和国は大らかなものだぜ! それにひきかえおれたちのギロチンロマンスときたら、およそ愚にもつかない。(Ⅰ, p.12-3)

 日本語訳は本文にない言葉を補ったり、別の言葉に置き換えたりしながら、だいぶ解釈を入れ込んでいるように見える。
 ここまで読んだところでは、知識や暗示されたものを読み解く力は必要かもしれないが、ドイツ語としては特に面倒臭いとも思われない。セリフだから当然ではあるけれど、ビューヒナーはもともと不自然に飾り立てた文章を好まなかったらしい。