本の覚書

本と語学のはなし

トロイラスとクレシダ/ウィリアム・シェイクスピア

 シェイクスピア特集の第一弾。
 舞台はホメロスも『イーリアス』に描いたトロイ戦争。主人公は、トロイ方の一途なトロイラス(王の息子)とトロイ方からギリシア方に引き渡され、それとともに愛も移ろってゆくクレシダ。だが、トロイラスも死なず、クレシダも死なない。不完全燃焼のまま物語は終わる。
 ほとんど上演されてこなかったのも頷ける。不気味な余韻に現代的意義が見出されるようになったのは、ようやく第二次世界大戦の頃からだという。


 西洋古典学を専門にしたいと思っていた頃もあるから、ギリシア神話に暗いわけではない。しかし、英語読みだと今一つピンとこない。
 イーニーアスはアイネイアース、エイジャックスはアイアース、ユリシーズオデュッセウス、ダイアミディーズがディオメーデースなどなど。ラテン語名になったものが更に英語化されたりすると、一層分かりにくい。


シェイクスピア・ハンドブック

シェイクスピア・ハンドブック

  • 発売日: 2010/06/18
  • メディア: 単行本
 河合祥一郎小林章夫編『シェイクスピアハンドブック』(三省堂)の分類に従ってジャンルを選択し、そのジャンルに掲載された順に読んでいく。
 先ずは読んでいないものが多いであろう問題劇・ロマンス劇から。問題劇というのは道徳的ジレンマや社会問題を提示するような劇のことらしい。普通は『トロイラスとクレシダ』『終わりよければすべてよし』『尺には尺を』の3編を指すが、この『ハンドブック』では『アテネのタイモン』もこのジャンルに入れられているし、別の見解によれば、『ハムレット』や『ヴェニスの商人』も含まれることがある。
 ちなみに『トロイラスとクレシダ』は、筑摩書房の全集(最近出たちくま文庫のではない)では悲劇に分類されている。