本の覚書

本と語学のはなし

購入その五

Selections from Virgil-Aeneid: Read in Latin By Jo

Selections from Virgil-Aeneid: Read in Latin By Jo

 ウェルギリウスアエネーイス』のラテン語原文から抜粋して朗読したCD。私はどうしてもヘクサメトロスを強調しすぎた読み方をしてしまうのだけど、それで正しいのかどうか確かめたかった。
 ヘクサメトロスというのは六脚韻のことで、長短短格(- u u)または長長格(- -)を一行の中で六回繰り返すというものである。ただし、最後は長短格または長長格になる。
 たとえば、第一巻の冒頭の一行。

 Arma virumque canō, Troiae quī prīmus ab ōrīs

 長母音は分かりやすいように記号を付けた。長母音や二重母音があればそれは長い音節である。短母音であっても、その後に二つ以上の子音が続けば、基本的には長い音節である。これをヘクサメトロスと分かるように句切ると、

 Arma vi- | rumque ca- | nō, Troi- | ae quī | prīmus ab | ōrīs

となり、- u u | - u u | - u u | - - | - u u | - - となっていることが見て取れると思う。
 私はこの詩形を尊重して、「アルマ、ウィ|ルムクェ、カ|ノー、トロイ|アエ、クィー|プリームサ|ボーリース」と単語を分断するのも厭わなかったのだが、CDではそんな読み方はしていなかった。もっと自然でよいらしい。
 もっとも私がこういう読み方をするのは、学生時代にホメロスの『イーリアス』を勉強したときに、先生がそのようにギリシア語を発声していたからだと思うのだ(遠い記憶なので自信がないが、しかし、そうでなくては私が一人でそんな癖をつけるはずがない)。


 John F. C. Richardsという人の読み方には、少し疑問もある。三行目を見てみる。

 lītora ―― multum ille et terrīs iactātus et altō

 半子音のiを便宜上jに替えて、これを句切る。

 lītora | mult(um) il- | l(e) et ter- | rīs jac- | tātus et | altō

 multumの-um、illeの-eは、後に母音が続くことで欠落し、発音もされないはずである。「リートラ、ムルティルレト、テルリース、ヤクタートゥセタルトー」という風になるはずと思って期待したのだが、割とはっきり全部読んいる。単語末の子音と次の単語の先頭の母音を繋げる(フランス語でいうところのアンシェヌマン)こともない。これでいいのだろうか。


 最近は、残された時間の中でものになりそうなものだけを選択するべきという、いつもの揺り戻しのために、ギリシア語もラテン語もドイツ語も休止して、英語やフランス語、古文、漢詩(および中国語)ばかりに時間を割いている。
 だが、やっぱり時々は戻って来なくてはならないのだ。